2026/7/7 公開
この記事は、Quoraで公開した回答を再編集したものです(元の回答)。
機械翻訳の時代に英語学習は必要か
自動翻訳の精度がすさまじい勢いで上がっている今、「もう外国語なんて勉強しなくていいのでは」と思うことはありませんか。この疑問について聞かれた2つの質問への回答をまとめました。
外国語の学習は不要になるか
Q. 将来、外国語の学習が不要になると思いますか?
20年前の私たちが、現在をどの程度の精度で予測できていたかを考えると、正直「何も分からない」というのが本音です。ただ、勘で答えるなら「完全に不要になる」という状態は、少なくとも私たちが生きている間はしばらく来ないだろうと思っています。
複数の言語の間には、そもそも翻訳が不可能な要素、つまり訳した時点で別物になってしまう問題が常につきまといます。Quoraでも「○○は英語で何と言いますか?」という質問がよく出ますが、「そういう表現は英語(の考え方)にはない」という答えにならざるを得ないことがたくさんあります。たとえば日本語の「私」と「俺」は、英語ではどちらも「I」になってしまいますが、このニュアンスの違いを”翻訳”することは不可能です。だから翻訳版というのは常に「別物」になり、その別物が役に立つかどうかは、結局人間が判断しなければなりません。これは本質的な違いの話なので、翻訳システムがどれだけ進化してもこの差を埋めることはできません。
たまの海外旅行でホテルやお店の人と最低限やりとりできれば十分、というレベルなら、いま英語を勉強する必要は特にないと思います。ただし、失敗の許されない仕事の場面で使いこなしたり、現地の人と本気で友人になったり、その国の文化的な作品を字面ではなく肌感覚で味わったりしたいなら、話は別です。そこまで求めるなら、自分の脳の中にその言語のしくみそのものを作り込む以外に方法はないでしょう。ですから「自分は英語を学ぶべきか」という質問への答えは、結局「何を目的にするか次第」ということになります。
とはいえ、脳にチップを埋め込んで言語野を直接刺激する翻訳システムができるとか、言語学習そのものを不要にするシステムができるとか、人類の可能性は無限大なので、断定はできません(元の回答)。
ビジネスに英語力は不要になるか
Q. リアルタイム翻訳によってビジネスに英語力が必要なくなると思いますか?
これはビジネスの種類によると思います。気持ちの交流やきめ細やかなヒアリングが必要な仕事を自動翻訳で代替するのは、少なくとも私たちが生きている間は難しいはずです。言葉が違うということは文化が違うということなので、たとえ言語を”正しく”翻訳できたとしても意図が通じないことは多く、その保証ができない以上、重要なことは任せられない、となりがちです。
一方、定型的・事務的なやりとりについては、すでにそうした置き換えが起きつつあると感じます。自動翻訳の精度は信じられないスピードで進歩していて、「外資系にいるけれど英語はあまり分からず、自動翻訳でごまかしている」という人を実際に知っています。これは十数年前なら考えられなかったことです(つまり、ごまかせる程度には仕事ができているわけです)。
したがって中期的には、中途半端な英語力の意味は少しずつ薄れていき、ハイレベルな人材は引き続き重宝される、という流れになると予想しています。
ただ、リアルタイム翻訳の精度がどれだけ上がっても、構文が違う以上、原理的にワンテンポの遅れはどうしても生じます。このワンテンポは実は結構大事で、会話でも読み書きでも、思考のスピードにブレーキをかけられるのはかなりのストレスになります。だから、自動翻訳を介した相手と長く会話したいとはあまり思えないでしょうし、得意でない言語で仕事をするのはできれば避けたいはずです。英語で仕事をする環境なら、脳に英語回路ができているほうが自動翻訳よりも圧倒的に有利なので、英語を勉強するニーズがなくなることはないと思います。
また、日本はかなり英語教育に力を入れつつあり、今の10代はすでに英語がかなりできたりします。英語ができるのが「普通」になる社会が来る可能性もあり、そのときはこの議論自体が意味をなさなくなるかもしれません。生身で話せるなら、コンピュータの力を借りる必要はないですからね(元の回答)。